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提言

本提言のステータスについて

本提言は、完成した文面として公開済みです。軽微な修正をのぞき、変更しません。

本提言の文責・主体

本提言は下記、日本CTO協会理事一同により作成され提言するものとなります。

CTO協会理事

  • 松岡 剛志 代表理事
  • 小野 和俊 理事
  • 栗林 健太郎 理事
  • 小賀 昌法 理事
  • 竹内 真 理事
  • 名村 卓 理事
  • 広木 大地 理事
  • 藤本 真樹 理事
  • 藤門 千明 理事
  • 松本 勇気 理事
  • 安武 弘晃 理事

デジタル庁の創設に向けた提言政策提言ワーキンググループ

  • 池内 孝啓
  • 浦田 祐輝
  • 梶原 大輔
  • 葛川 敬祐
  • 佐藤 大資
  • 篠塚 史弥
  • 町野 明徳
  • 松尾 直幸
  • 若井 信一郎

本提言の目的

本提言は、デジタル庁の設立および付随する行政のデジタル化における活動に対し、組織やサービスに関して期待する方向性を示します。また、今後日本CTO協会、特にその理事を中心とした政策提言などの活動においての方向性となるものでもあります。

本提言の宛先

本提言は、デジタル庁の設立および付随する行政のデジタル化における活動に関わる方々を宛先として想定しています。

前文

デジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)は、業務効率向上を目的とするデジタル化だけを意味するのではありません。自動化の恩恵を受けやすい業務・活動をコンピューターに任せ、人が取り組むことでより市民へと寄り添える業務に私たちが集中できるよう変革することを意味しています。行政におけるDXとは、行政サービスをデジタル化することによる効率化であるとともに、より多くの価値を付加するための質的な転換だとも考えています。

我が国では、世界中のどの国もまだ経験したことのない少子高齢化と人口減少が加速しています。今後も継続して人々の健康で文化的な暮らしを実現するためには、「コンピューターに仕事をさせやすい社会」「より人が価値を生む活動に集中できる社会」を実現することが必要です。

今の社会はコンピューターに仕事をさせやすい社会とは言えず、人間によるより良い価値の提供の余地が多く残る状況であると考えます。その多くは、例えば紙やハンコによる手続きや、窓口での対面を必須とする手続きのようなデジタルなシステムと分断されている様々な慣習から来るものです。 行政手続きのより多くをデジタルな世界と地続きにすることによりコンピューターを労働力として活用しながら、人がより価値を生み出すこと、より良いサービスの提供につなげることが重要ではないでしょうか。

我が国では、少子高齢化と人口減少とによって、労働力はますます減っていきます。一方で、コンピューターはますます安価になっていきます。ソフトウェア技術を活用することによって、我が国の経済力を維持・向上させ、教育機会や地域間などにおける様々な格差をより改善することが可能になります。DXとは、「コンピューターの働き方改革」でもあります。すなわち、社会の仕組みをソフトウェア化することによってコンピューターに十分に仕事をしてもらえる環境を整えることです。そのことで、私たち人間が膨大な時間を使って労働集約で解決してきた業務に煩わされることなく、存分に幸福を追求できる社会を実現できます。

これまで日本の行政機関においては、安全性、安定性などの観点からITは「専門家に依頼し調達するもの」であり、「共創し自ら改善し続けるもの」とは考えられてきませんでした。また、縦割りに構築された行政システムが多く、そのシステム間の協調は難しい状況です。一方で、より多くの市民にとって使いやすいサービスにするための改善の余地はまだ大幅に残されたままであると言えるでしょう。さらに近年では行政と民間の連携により新たなサービスを生み出すこともテーマとして注目される中、その接続性などについてもより一層の向上が必要と考えます。それらのためには、ITシステムに対する認識を「調達」する対象から「継続的に改善し価値を作り続けていく」対象へと、抜本的に変えていく必要があります。

これまで述べてきたような日本社会のDXを実現するためには、行政組織自体の文化・思想・風土を、時代に合わせてアップデートする必要があります。そのためには「失敗を許容しながら継続的に改善する組織能力」を行政組織が獲得すべきだと私たちは考えます。経営と技術の両面を十分に理解した人材が不可欠であり、デジタル庁の中にもそうした役割があることでより強い推進力を得るのではないかと考えています。

私たちは、以上に述べたDXを実現するために必要な取り組みについて、以下の通り5つの項目を提言します。

1. 行政におけるソフトウェアを改善可能とする開発力の獲得

「継続的に価値を作り続けていく」必要のあるITサービスを、最初から完璧で使いやすいものとしてつくることは非常に難しいものです。より安全に作るべき守りの部分、使い勝手に着目し継続的に改善する攻めの部分などITサービスにはその内部にも様々な濃淡が存在します。より改善を要する部分では素早く利用者に届け素早く改善を繰り返すことが必要です。他方で安全に作るべき部分はこれまでと同じく丁寧な推進が必要でしょう。こうした濃淡を生み出すためには、システム開発を外部ベンダーに頼り切るのではなく、内外の既存資産も活用しながら行政自らが主体となって設計し改善し続ける能力を持たねばなりません。絶え間ない不断の改善が、よりよいITサービスを生み出します。

行政がITサービスによる継続的な価値創出に対して主体的に関わるためには、ソフトウェア開発のノウハウを組織内に蓄積できるような開発体制を持つ必要があります。経済産業省より提示された「2025年の崖」にも語られるような、経年の変化などによってソフトウェアの改修・改善が難しくなる状態を克服するためです。それは、いわゆる「技術的負債」を許容できる範囲にコントロールしていくことにもつながります。

私たちは、デジタル庁の長官として、デジタル企業の経営と技術の観点を兼ね備えた人材を民間から招聘することが必要だと考えます。また、デジタル庁の内部にもCTO(Chief Technology Officer)に相当する人材およびサービスを継続的に改善できるソフトウェアエンジニアを採用し、組織化する必要があると考えます。そのために、デジタル庁を政府におけるCTOと位置づけます。そして、ITサービスに適した組織を作り文化を醸成しアーキテクチャーから設計できる能力を備えることで、行政サービスの継続的な改善とアップデートが可能になると私達は考えます。

2. デジタルを活用しやすい法整備

ソフトウェア産業の興隆以前から社会を支えている現行の法令や枠組みには、どうしてもソフトウェア・サービスのあり方に合わないものも存在します。それがデジタルの導入・改善を妨げ、コンピュータを働かせるという点での制約になり得ます。また、今後成立するであろう様々な法律がデジタルの活用をより促進する土壌となるよう、その方向性を指し示し市民の理解を育んでいく必要があります。

例えば法的に押印が必要とされる不動産の重要事項説明などの書類や、個人情報保護法制2000個問題のようなデータ活用にまつわる法令の複雑さなど、様々な場面でデジタルを活用するための障壁が存在します。

民のサービス体験向上は、行政がより多くの施策や価値を迅速に届けるための手助けともなるでしょう。現行の法令の意義・背景を踏まえつつ、デジタルをより活用するためビジョンを掲げ、便利で安心安全な社会を実現するための法・制度の整備が必要と考えます。

3. Nation as a Service(サービスとしての国家)

ITサービスによる価値の提供においては民間の力の活用も大切な要素と考えます。民間の力を行政に活用するためには、行政のITサービスが幅広い範囲で外部と連携できるAPI(Application Programming Interface、外部連携の仕組み)を備える必要があります。外部のシステムとつながりやすい形で設計・開発するためです。また、世界中の開発者コミュニティやエコシステムの力を積極的に取り入れていくことも可能になります。

様々な行政のITサービスが、安全性、安定した運用および市民のプライバシーを保ちつつもAPIを介した民間との連携を持つこともまた必要です。例えば引っ越しのような複数の自治体、行政とのやり取りが必要な複数の行政機能にまたがるサービスや、より使いやすいサービスの提供が促進され、市民にとってのサービス体験向上にもつながると考えます。

民間の力を活用し、よりよいサービスを提供する、その基盤となるNation as a Serviceというあり方が重要だと考えます。

4. データ駆動な行政

よりよいサービスや政策を実現するためには、素早く正確な事実認識に基づく意思決定、EBPM(Evidence Based Policy Making)のような考え方が重要です。様々な行政手続き・活動を計測可能な状態とし、十分に市民のプライバシーに配慮しながらも行政活動や市民状況のデータをリアルタイムに蓄積・分析・可視化し、明確な指標を持って改善を進めていく必要があります。

行政におけるビジョンやそれに紐づく指標、および行政・市民の現状を、市民が活用しやすい形式で公開することは市民にとっての行政の透明化にも繋がるでしょう。またデータの活用による定量的な取り組みは、省庁間連携における明確な共通言語となり得ます。もちろん、単純な指標で全てが解決するわけではありません。しかし、日々定量的な指標に向き合うことは継続的なITサービスの改善において重要とされています。不確実な時代だからこそ、データを収集・活用した定量的な活動の評価が着実な改善を生み出し続ける礎となると考えています。

また、日本経済団体連合会などでも提案されているAI-Readyの推進、つまりデータと機械学習の活用は行政の効率化を進める重要な武器となるでしょう。例えば文字認識技術等により紙媒体をデータ化することはソフトウェアの活用範囲を広げることにつながり、より多くの業務を自動化します。

5. 小さく失敗し学べる文化と透明性

行政組織は、市民の情報を預かりサービスを運営するというミッションゆえに失敗の影響範囲も大きく、失敗を許容しづらい環境にありました。一方、そうしたなかで育まれた文化はデジタルな組織とのミスマッチも大きいというのも事実です。失敗の影響範囲を小さくできる環境を構築することで、継続的な改善をしやすい組織を生み出し、失敗に迅速に対処し失敗に学ぶことにもつながると考えています。

そのために、現状運用されている規制のサンドボックス制度やそれに類する仕組みの拡充から、ベータ版としてのITサービスを行政自らも検証していく取り組みも求められるのではないでしょうか。

ベータ版では、課題もたくさん出ます。失敗も起こります。しかしクリティカルでない範囲で、小さな失敗を積み重ねることは、よりよいITサービスの提供につながります。いま世界中の人々のインフラになっているITサービスも、小さな失敗の積み重ねで作られてきました。こうしたサンドボックスの整備と市民からのフィードバックが得やすい環境・仕組み作りによって、より良いサービスを生み出していくことが可能になると考えています。

また、適切なフィードバックを得ていくためにも、行政サービスにおける「バックログ」(今後のITサービスの改善とその方向性・優先順位)もできる限り公開していくことが求められます。市民からのフィードバックの獲得、それを元にした改善、さらに声の届く行政であることによるサービスへの確かな信頼が生まれると考えています。